#9 A Maldição do Samba / Marcelo D2

異文化が混ざり合うブラジルではよく、“Sou Brasileiro”という言葉をよく耳にする。これを直訳すると私はブラジル人であるという意味であるが、そこには同時にブラジル人である誇りもこめられている気がする。
日本と同じように、ブラジルにもアメリカやヨーロッパ文化は沢山入ってくる。他国の文化に敏感になるのは比較的若い世代だが、インターネットが普及されてからは日本や韓国の流行を知ることも容易になり、近年ではサンパウロのメイン通りとも言われるパウリスタ大通りでK-POPファンによるダンスイベントが行われるほどだ。それでも、ブラジル人は常にブラジルらしい何かを忘れない。他国の文化をうまく吸収して、Made in Brazilにしてしまうのが上手いのは、これまでの移民の歴史からきているものなのだろうか。

1967年11月5日、Marcelo Maldonado Gomes Peixotoはリオデジャネイロにある生地工場の人事部主任Dark Gomes Peixotoと、そこで裁縫をしていたPauleteの間に生まれた。リオ北部のMaria da Graçaで育ち、Morro*1 に住むことはなかったが、近くで暮らしたこともあった。9歳になった頃、母に頼まれて近くまで牛乳を買いに行った帰り道、複数の少年たちに押さえつけられた。牛乳を渡すまいと走ったが、少年のひとりがナイフでMarceloの胸部を切りつけた。Marceloは早くから生きるために必要なことは何かを覚えていった。家庭は裕福ではないが、ブラジル人家庭の基本的な食材である米と豆、卵がつきることはなかった。貧しい年のクリスマスは、父は紙で作ったおもちゃをプレゼントとしたが、収入が良い年はお気に入りのEscola de Samba *2に連れて行ってもらえることもあった。9歳まではEstação Primeira de Mangueiraのファンだったが、のちに祖母の自宅近くだったMocidade Independente de Padre Miguelに通うようになったという。
少年期は、万引きや飲酒、喫煙など非行に走り、両親が離婚するころには家に帰らないことも多くなった。長い外出の後に家へ帰ると、母親の姿がなかった。残された父親は、彼の顔を殴りつけ「今のは父親ではなく男としてだ。」と言った。父親に殴られたのは初めてだったMarceloは心を入れ替え始める。
両親は離婚。母親とその再婚相手と折り合いがつかず、父親の元へ戻るも、父親とその友人女性とワンルームでの生活を余儀なくされた。そんな状態に耐えられず、友達の家を転々する生活をするが、その後は徴兵制により1年間の兵役を行い、地元の家具店の販売の仕事に就くことができた。
その年のカーニヴァルに出会った3歳年下のSôniaと交際期間を持たずに結婚する。彼女は16歳だった。意を決してSôniaの親戚がもつ店で働くためにパラナ州のマリンガに二人で引越しする。
*1 丘の上Morroという表現は、一般的にスラム街などと呼ばれるFavelaをさしているが、ブラジルでは一般的にMorroやComunidadeと書かれることが多い
*2 サンバのコミュニティ

リオに戻ったMarceloは手作りのロックバンドのTシャツを売る仕事をしていた。
とある日、Dead KennedysのTシャツを着ていたところ、
「お!Dead Kennedys好きなの?じゃあこのカセットテープ聴くといいよ。明日返してくれればいいから。」
と一人の男がDread Flintstonesのテープを渡してきた。その男とは、Marceloの運命を変えるきっかけとなったSkunkである。彼は一日中音楽の話をするほど音楽に夢中だった。Skunkに連れられ、13 de Maio通りの仲間たちと一緒に音楽を聴くようになった。この仲間たちの影響で、Marceloはミュージシャンになると決心した。

楽器も何も弾けないが、とにかく歌いたい。
そんな一心でSkunkらとバンドPlanet Hempを組んだ。バンド名はアメリカの雑誌High Timesのカンナビス栽培に特化したページからつけたものだ。Skankは歌詞を英語で書くことを提案したが、それに対してMarceloはこう答えた。

“Eu gosto de usar tênis importado e camisa do Mengão, gosto de um pagodinho, de fazer hip hop falando “cumpadi”, tá ligado? Não posso esconder que gosto de Beth Carvalho.”

カリオカっぽい独特な言い回しなので完璧に和訳するのは少し難しいが、
「俺は輸入品のスニーカーにフラメンゴのシャツを着るのが好きなんだ。Pagodeが好きで、“Cumpadi”ってHip Hopする、わかるだろう?Beth Carvalhoが好きだって隠せないよ。」
解説すると、フラメンゴとはリオのサッカーチーム。Pagodeは1970年代から現れた少人数で演奏するサンバから始まった音楽文化。“Cumpadi”とは、カリオカが使うスラングでブラザーのような、親しい間柄を呼ぶ際に使う。Beth CarvalhoはSambaやPagodeシーンで活躍するブラジルの歌手である。
この通り、Marceloはブラジル人であること、ブラジルの文化が好きだということを表現したいと、提案したのだった。こうしてMarcelo D2(マルセロ デードイスと読む)が誕生した。
バンドはMarcelo D2の意見を尊重し、ポルトガル語で歌うことになった。最初はRock調だった音楽性に、Rapを取り入れた。
その頃、Skankはエイズを患っていた。隠しながら活動を続けるも、残念ながら1995年に帰らぬ人なる。このバンドPlanet Hempについては大変興味深いので後日改めて書く事にする。

Planet Hempの活動とは別に、Marcelo D2はソロの活動をスタートする。
ここでSambaとHip-Hopの融合に試みた。自分達の文化であるSambaとポルトガル語のRapに、貧困層の日常や警察の暴力問題、マリファナ使用の賛同などのテーマをのせた。
1998年に初のソロアルバムである“Eu Tiro é Onda”を発表するが、そこまで話題になることなく終わる。2003年に“A Procura da Batida Perfeita”を発表。このアルバムが大ヒットとなり、前作も評価されることになる。
アルバム“A Procura da Batida Perfeita”(完璧なビートを求めて)は、Hip-Hop創始に関わった重要人物の一人であるAfrika Bambaataaの作品“Looking for the Perfect Beat”をポルトガル語にしたものであるが、曲としては全く別物である。
アルバムはヨーロッパ、アメリカ、一部のアジアでもリリースされ、ヨーロッパツアーも実現した。Planet Hempと同じように、歌詞には日常やマリファナ、ブラジル音楽について書かれているが、Sambaのエッセンスが取り入れられ、重苦しい雰囲気にならないのも多くの人に受けえられた理由のひとつかもしれない。
マリファナについての見解は賛否両論であり、Marcelo D2はPlanet Hempのツアー中に厳重注意として1週間ブラジリアの刑務所に収監されている。ちなみにMarcelo D2の“D2”とは、Dar um doisの略でマリファナを吸うことの隠語である。
楽曲“A Maldição do Samba”ではMarku Ribasの“Zamba Bem”やPaulinho da Violaの “Argumento”をサンプリングとして使用。 この曲以外にも“Re-Batucada”ではZé KatimbaとJoão Nogueiraの“Do jeito que o rei mandou”を大々的に取り入れた。3枚目以降の作品でも数多くのブラジル音楽のヒット曲を使用している。
アルバムには自身の息子Stephanも参加した“Loadeando”や、Black Eyed PeasのWill I Amを迎えた“C.B. Sangue Bom”も収録。

ブラジル人が自国の文化を取り入れるのが非常に上手いと感じる一枚だ。
今回は2004年にDVDで発表されたMTVの収録が最高にかっこいいのでこのバージョンをご紹介する。スラング連呼も、表現のひとつである。
余談だが、Marcelo D2は近年、また違ったところで注目を集める事になった。それは2018年の大統領選挙。反Bolsonaro候補者(結果的に現大統領となる)として活動するMarcelo D2に対してBolsonaroは「Marcelo D2とは誰だ?」とTwitterに投稿。Marcelo D2は自身の顔写真付きで「俺だ」と返信。更に反Bolsonaroを代表し、票を奪ってみせると宣言した。Bolsonaro当選後も活動を続け、反Bolsonaro派のリーダーの一人として注目されている。

アルバム: A Procura da Batida Perfeita (2003)
作詞作曲: Marcelo D2、Zé Gonzales
録音: (アルバム収録メンバー)
Casa Forte | Metais
Duani Martins | Coro
Mamão | Bateria
Mix Mastermike | Scratch
Seu Jorge (Jorge Mário da Silva) | Coro
Tuca Milan | Percussão
【参考】
https://marcelod2fans.wordpress.com/about-marcelo-peixoto-2/
https://veja.abril.com.br/politica/bolsonaro-se-envolve-em-polemica-com-marcelo-d2-no-twitter/
【協力】Arthur Rita

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