Choro ブラジル 楽曲分析

#8 Suíte Retratos Ⅳ. Chiquinha Gonzaga / Radames Gnattali

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クラシックとポピュラー音楽の違いとは何か?急に質問されると返答に困ってしまう。私は音楽大学でクラシックを学んだ。大学を卒業してからは、自然と以前から興味があったポピュラー音楽の演奏し始めたが、“クラシックかポピュラーか、どちらかを選ばなくてはならない”という雰囲気にどうしても納得いかなかった。私は、その中間にあるものを探し続けた。中間というよりも、どちらに属しているか判断しなければならないような世界観から脱出したかったのだ。そんな時に出会ったのが、ブラジル音楽ショーロだった。ショーロの演奏は、メロディをソリストが自由に演奏できるのが特徴だ。場合によっては即興もされるが、即興はあくまでもメロディと紐付けられている。曲の形式であったり、楽譜が忠実に書かれた作品も存在することから考えるとショーロは私の理想であった。
今日は、そんなクラシックとポピュラー音楽の良さをどちらも持ち合わせた作曲家の作品を紹介したい。

Radames Gnattaliはリオデジャネイロ出身の作曲、編曲家でピアニストである。クラシックピアノを勉強した後、ラジオ局にて作曲と編曲の仕事に就く。彼については話が長くなりそうなので、別の日に詳しく書くことにする。
“Suíte Retratos”は、ショーロの偉大な音楽家4人に敬意を込めて、Radamesが描いた4つの楽章からなる組曲である。Retratosとは日本語で肖像画という意味をもつ。

第1楽章 Pixinguinha
第2楽章 Ernesto Nazareth
第3楽章 Anacleto de Medeiros
第4楽章 Chiquinha Gonzaga

 各楽章で、各音楽家の作品のフレーズをモチーフとして使用している。
この組曲は1956年にソロバンドリンとConjunto regional(ショーロのトラディショナルな編成)、オーケストラのために作曲され、1964年にソリストJacob do Bandolimによって初めて録音された。
もちろんこのオリジナル版も素晴らしいのだが、個人的にアコーディオンのChiquinhoとギターのRaphael Rabelloの共作で、Violão Baixoと呼ばれるアコースティックベースを演奏するDininhoを迎えたトリオによる演奏とアレンジが素晴らしいので、このバージョンを使って最終楽章である第4楽章から分析していきたい。

第4楽章は女流作曲家のChiquinha Gonzagaが残した名曲“Corta-Jaca *1 ”をモチーフに書かれた作品だ。
ショーロの作品はA,B,Cのパートが存在する小ロンド形式もしくはA,Bのみの二部形式で書かれていることが多く、“Corta-Jaca”は後者、A,Bのみの楽曲である。
曲は2/4拍子。RadamesはCorta-JacaのA,Bの各モチーフを拡張させており、中間部には音楽記号Meno *2を用いて、緩やかな部分を導入した。ここではソリストの自由な表現が楽しめる。Meno以降は、再度Corta-JacaのBのメロディをモチーフとした上行形のメロディを利用し、小さな転調を繰り返す事によって、より壮大かつドラマチックに仕上げている。基本的にはDメジャーであるが、近親調ではないCメジャーに転調するのも興味深い *3。
*1 Corta-Jacaは別名Gaúchoとしても親しまれている
*2 Menoとは「少し」の意味をもち、この場合テンポ遅くすることを表している
*3 ショーロの転調は同主調、平行調もしくはⅥ度の調の場合が多い

イントロ (6 + 4小節)

A (28小節) Dメジャー
Interludio (4小節) DメジャーからDマイナーへ転調
B (22小節) Dマイナー
C (41 + 45小節) Cメジャー、Aマイナー、Cメジャー

中間部
D (20小節) DマイナーからDメジャー
E (24小節) Dマイナー
D (20小節) DマイナーからDメジャー
E (24小節) Dマイナー

イントロ (4小節)
A (28小節) Dメジャー
B (21小節) Dマイナー
コーダ (13小節) Dメジャー

オリジナル版のSuíte Retratosは、D,Eの後にC’(終わり部分がDメジャーに自然と戻るように書かれている)が演奏されるが、ChiquinhoとRaphael版ではD,Eが繰り返され、1度目はRaphaelがギターでメロディ、2度目は逆となり、Chiquinhoがアコーディオンでメロディを担当する。その後はC'に入らずに、Dの最後にドミナントコードであるA7をおいて、Dメジャーのイントロに戻る。

Corta-JacaSuite Retratos Ⅳ. Chiquinha Gonzaga
A A, B
B C, D(一部), E
モチーフの引用
Corta-Jaca :A のモチーフ引用例
Corta-Jaca :B のモチーフ引用例

Corta-JacaのAはDマイナーに対して、Suíte RetratosではこのモチーフをDメジャーからはじめ、その後に同じ始まり方でDマイナーと2回登場させている。Dメジャーのメロディは2小節目にCナチュラル(コードにするとDsus7(9))をもってくることによって、鮮明なメジャー感をなくしているところも興味深い。
メロディがCorta-Jacaよりも複雑になっている分、それに対する伴奏は少しだけシンプルにされている。

元々オーケストラが伴奏するように書かれたものを、ChiquinhoとRaphaelは見事に3人で成り立つようにアレンジした。弦楽器の合奏部分は、あえてハーモニクスを使わず対旋律に切り替えたりと工夫している。アレンジも良いのだが、それ以上に彼らの演奏力のレベルの高さも圧巻される。
実は、Chiquinhoはこの曲と深い関わりがある。JacobがSuíte Retratosを録音する際、彼は楽譜を読む習慣がなく譜読みに時間がかかっていた。そこでChiquinhoがメロディを仮録音し、Jacobはそれを聴きながらメロディを覚えたのだった。のちに、Jacobはその感謝の気持ちをRadamesに話したそうだ。もしかすると、Jacobが録音したSuíte RetratosにはChiquinhoの演奏の影響もあるかもしれない。それからしばらく経って、Chiquinho自身がソリストとして録音したのがこの作品である。
また、この曲はギター2本によるデュオのアレンジ作品もよく演奏、録音されている。

アルバム: Radames Gnattali Retratos (1990)
作曲: Radames Gnattali
編曲: Chiquinho do Acordeon (Romeu Seibel), Raphael Rabello
録音:
Chiquinho do Acordeon (Romeu Seibel) / Acordeon
Dininho (Horondino Reis da Silva) / Violão Baixo
Raphael Rabello : Violão

こちらがChiquinha GonzagaのCorta-Jaca

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