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#6 O Pajador / Quinteto Canjerana

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故郷への想いとは、その人を形成する美しさでもある。私のように産まれてから何度も引越しを繰り返している者には、羨ましいものでもある。
ブラジルは日本の約23倍の面積という物理的な部分でも、多くの移民を受け入れた歴史的な部分でも、多種多様の文化が存在する。
インターネットで何でも調べられる時代になった今でも、ブラジルといえばサッカーとモレーナ(混血の女性)がサンバを踊る国とうステレオタイプからなかなか抜け出せられない。そんな中、あまり知られていないブラジルの魅力を少しでも伝えていくのが自分の使命だと思っている。

ブラジル南部の音楽こそ、日本でまだ知られていない魅力のひとつである。南部とはパラナ、サンタ・カタリーナ、リオグランデドスル*の3つの州を指している。1992年、ブラジル独立を目指す“O Sul é o Meu País”(南部は私の国)という運動が起こった。この運動は、以前から一つの共和国として独立を目指していたリオグランジドスルが中心に起こったもので、もちろん実現には至らなかった。これについては後日ゆっくり書きたいと思う。

そのリオグランデドスルとはブラジルの最南端に位置し、アルゼンチン、ウルグアイに面している。かつてポルトガル、スペイン王国間の国境紛争の舞台となった場所だ。ブラジルが独立した後はドイツ、イタリアからの移民の入植が始まり、次第にヨーロッパ系移民が増えていく。アコーディオンも、この南部の移民たちが持ち込んだもので、のちにブラジル全土に広まったのであった。

リオグランデドスル出身の人たちを“Gaúcho”と呼ぶ風習がある。Gaúchoとは、ブラジル南部やアルゼンチン、ウルグアイのパンパ(草原)の牧童たちを表していたが、今日では同地域出身者の愛称となっている。彼らは長年繰り広げられた紛争の名残なのか、故郷への想いが強く、堅実だが争い好きというような勝手なイメージをもたれている。まるで歌っているような独特な喋り方も特徴的である。
そんなGaúchoたちは、シマホンと呼ばれるマテ茶を愛し、Música Gaúchaと呼ばれる彼らの音楽や文化に誇りをもっている。
私には多くのGaúchoの友達がいるが、何度かシュハスコ(ブラジルのバーベキュー)に招待してもらったことがある。シマホンを回し飲みしながら、ラジオからはMúsica Gaúchaが流れており、当時の私には全て同じ曲のように聴こえたのを覚えている。
Música Gaúchaでは歌の他にアコーディオンやガットギター、Bombo Legueroと呼ばれる革張りの太鼓を使うことが多く、やはりアルゼンチンやウルグアイの音楽と非常に関係が深い。
* リオグランジドスルのポルトガル語での発音はヒウグランジドスウに近い

Quinteto Canjeranaは、そんなGaúchoたちの郷土愛から結成された。
Música Gaúchaを基盤としたオリジナルのインストゥルメント音楽を演奏するだけでなく、そこに現在的なエッセンスを取り入れた“Música Gaúcha Contemporânea”という新たな世界を作り上げた。
現代的なエッセンスとは、主に即興であるが、エレキギターとドラムが入る編成も、トラディショナルとは大きく異なる点であるといえる。即興が含まれることに対して、彼らの音楽をJazzと呼ぶ人もいるそうだが、メンバーのZocaは「哲学的にはそうなのかもしれないが、表現的には南部生来のものである。」とインタビューに答えている。
本作は1日のうちに全9曲、全員同じ部屋にて一斉録音で行われた。Zocaは「その方が慣れている。アレンジの関係で、誰かのフレーズを合図にして入る所もあるからさ。」と話し、Tiagoは「録音はその方がオーガニック*1で良い。数曲だけ、2,3テイク録音したけど、どれが良いというより、どれも興味深い。なぜなら毎回違った演奏になるからね。」と答えた。
ちなみにQuintetoの由来については「Hermeto*2 が、『曲は子供と一緒でできてから名前をつける』と話しているように、このグループ名もリハーサルをして暫くたってからFernandoがパッとひらめいて付けたものだった。」とZocaが話した。Canjeranaは大きな木の一種である。
*1 この場合のオーガニックとは、相互に関連しあっているという意味で、ブラジル人ミュージシャンはこの表現をよく使う
*2 ブラジルの音楽家 Hermeto Pascoal

アルバムはどの作品も念密にアレンジされているように聴こえるが、Tiagoがいうように、決まりごとがありながらも実際は非常にフレキシブルである。
アコーディオン、ガットギター、エレキギターと、メロディ及びハーモニーを受けもつことができる楽器が3人もグループにいるのだが、この辺りのアレンジはブラジル人の得意技なのか、非常にバランスが良い。彼らは音の足し算だけでなく、引き算をしっているのだ。
ZocaとTiagoは私の母校Conservatorio de Tatuíの先輩にあたり、特にZocaはHermeto Pascoalから強い影響を受けているようで、“Rancheira pro Campeão”は彼に捧げた曲である。Campeão(チャンピョン)とはHermetoの愛称である。
今回は“O Pajador”というJayme Caetano Braunに捧げたMilongaを紹介したい。Jaymeは作詞家/作曲家であり、公務員でもあった。彼はPajadoと呼ばれるギターに合わせて即興で詩をうたうPajadorとして活躍。長年ラジオにも出演し、リオグランデドスルで人気を博した。Pajadorはアルゼンチンやウルグアイにも名手がおり、スペイン語表記ではPayadorと呼ばれる。
Tiagoの話すとおり、アルバムの演奏とテレビ出演時の演奏は違った良さがあるので、こちらで2つの動画を紹介する。Gaúchoを象徴する彼らの服装にも注目してほしい。これは決して“衣装”ではなく、リオグランジドスルでは今日も着られているものである。彼らが愛用する靴はAlpargatasと呼ばれており、ビーチサンダルで有名なhavaianasにも、それをイメージした商品がある。

アルバムの録音はアルゼンチンの打楽器奏者Gonzalo Diazも参加しており、ボーナストラックとしてFernando作曲のAlto Marに彼がスペイン語で歌詞を提供したバージョンも素晴らしい。
Quinteto Canjeranaはウェブサイトでこのアルバム収録曲のストリーミング視聴、そして楽譜を無料でダウンロード提供しているので是非チェックしてみてほしい。

アルバム: Promessa (2014)
作曲: Zoca Jungs
録音:
Fernando Graciola | violão
Maurício Horn | acordeon
Maurício Malaggi | bateria
Tiago Ferrari Daiello “Gaúcho” | contrabaixo acústico
Zoca Jungs | guitarra e viola 10 cordas
特別参加
Gonzalo Diaz | percussion

【参考】
http://www.canjerana.com.br/
https://www.youtube.com/watch?v=6xw5fF3J_74&t=617s
https://www.youtube.com/watch?v=7mK-hwOCyGU
渡会 環 「国家統合推進下のブラジル・リオグランデドスル州における「国民意識」と「地域意識」の接合に関する議論の考察
【協力】Arthur Rita

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