MPB ブラジル 誕生秘話

#5 Jogral / Djavan

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聴くと自然と幸せになる曲とは、誰にでも存在するだろう。
MPBの誕生からしばらく経った1980年。ブラスセクション、電子楽器、ストリングス、スルドからヒントを得たエレキベース、ドラムと豊富なパーカッション…非常に豪華で手の込んだアレンジが多く、個人的には大好きな時代である。名曲が多いこの時代、中でもDjavanのJogralは、いつ聴いても私をワクワクさせてくれる。2分13秒と非常に短いので、何度もリピートしてしまうが全く飽きない。音楽院のアンサンブルの授業でも演奏したので、何百回とこの曲に触れているだろう。そんな私が大好きなこの曲の誕生には、素晴らしい秘話が隠されていた。

この曲はDjavan、Filo MachadoとNetão(José Neto)の共作である。
Filoはブラジルのみならず、ヨーロッパや日本での公演経験もある音楽家で、普段はサンパウロで活動している。トレードマークのGodinのギターを弾き、歌いながら魅せてくれる彼の音楽は、ひとつの奏法としても確立できる程のもので、彼の大ファンだという音楽家は非常に多い。もう一人のNetão(José Neto)はFiloの友人音楽家で、Airto Moreiraのアルバムにて編曲などを手がけている。

Jogralとは、朗読者もしくは青年たちが行う発表(詞や歌の入る劇のようなもの)という意味があるのだが、実はサンパウロにある飲み屋Jogralからつけられたものだった。ちなみにJogral店主のLuiz Carlos Paranáは、1967年のブラジルポピュラー音楽祭にて楽曲“Maria, carnaval de cinza”を歌手Roberto Carlosに提供した作曲家でもある。(1967年のブラジルポピュラー音楽祭についてはこちらに詳しく記載している : https://nanbeiongaku365.com/13-ponteio-edu-lobo-e-jose-carlos-capinan/)
飲み屋と訳したが正確にはBoateとよばれるキャバレーで、FiloとNetãoはそこで演奏をしていた。Jogralでの楽しみは、女性さがし…ではなく、当時人気だったJogo de botãoと呼ばれるサッカーのボードゲームの試合だった。
この名曲は、その試合の合間にFiloがガットギター、Netãoがエレキギターを弾いてセッションしている間に誕生したのである。曲には歌詞がなく、AメロからBメロにかけてDメジャー→Aメジャーと転調するのは、ショーロの転調を意識したものだそうだ。メロディと共に自然に転調が続くのだが、実は複雑なのがFiloらしい。(正直、この曲を授業で演奏したとき、私はアドリブソロに苦労した)

しばらくしてJogralは閉店し、FiloはBoca da noiteという店で8年間演奏をすることになる。あまりにも長い間演奏をしていたため、お客さんには店主だと思われていたそうだ。
ある日、そのBoca da noiteにDjavanがやってきた。そこでFiloはDjavanに“Um chorinho”(ひとつのショーロ)として曲を披露したところ、「あとでじっくり聴きたいからテープを送ってくれないか?」とすっかり気に入った様子。Filoはその日の夜にテープに録音をし、代理人を通してリオデジャネイロに戻るDjavanにテープを届けることができた。数日後、DjavanはFiloに電話で、リオに来てほしいと頼み、FiloはリオのOdeonのスタジオにて、ギタリストとして録音に参加した。そこに同席していた憧れのAldir Blancと親交を深めることができ、のちに共作ができるほどとなった。
DjavanはこのFiloとNetãoの曲に、自分の故郷マセイオ、そして歌手を志していたころの想い出を寄せた。実際に歌手として大成功したDjavanだが、Jogralの他にもマセイオという地名がでてくる曲が存在する。Filoは特に「Cortando o torrão nesse trem*」という早い6連符が並ぶところがお気に入りのようだ。
*マセイオには電車が通っている

この曲が誕生したエピソードは、You tubeの人気チャンネルであるNelson FariaのUm Café Lá Em CasaにてFiloを迎えた回のインタビューを日本語訳させていただいた。この番組では数多くのミュージシャンとの共演と対談をみることができる。ポルトガル語の勉強にもなるのでおすすめだ。
想像とはまったく異なったが、この話をまるで昨日のことかのように楽しそうに話すFiloをみて、この曲が更に好きになった。

No dia em que eu vim de casa
Cheirando à beira-de-rio
No pensamento umas asas
Pra cumprir melhor meu desafio
Meu pensamento rodou
Cortando o torrão nesse trem
Andando bem...
Acho que a mais de cem
De Maceió aqui parece ali
Mãe disse que eu não aceite
Corja com más companhias
Quando deitar, tome o leite
Depois reze três Ave-Marias
Meu pensamento rodou
Cortando o torrão nesse trem
Andando bem...
Acho que a mais de cem
De Maceió aqui parece ali
Um dia ainda sou cantor
Faz um ano que eu te disse brincando
Eu fui pensar no meu amor
Agora tô aqui quase chorando
No dia em que eu vim de casa
Cheirando à beira de rio
No pensamento umas asas
Prá cumprir melhor meu desfio
E muita água rolou
Cortando o torrão nesse trem
Andando bem...
Acho que a mais de cem
De Maceió aqui parece ali

アルバム: Seduzir (1980)
作詞: Djavan
作曲: Filó Machado, Netão (José Neto)
編曲: Djavan, Luiz Avellar
録音:
Café : Congas, Xequerê
Djavan : Violão
Filó Machado : Guitarra
Luiz Avellar : Mini-moog, Piano Fender Rhodes
Marquinhos : Saxofone Alto
Moisés : Xique-xique
Moisés Nascimento : Trombone
Sizão Machado : Baixo Elétrico
Téo Lima : Cowbell, Bateria, Guiro
Zé Nogueira : Saxofone Soprano

【参考】
https://www.youtube.com/watch?v=tFW-byjwlE8&t=602s
【協力】Adriano Diamarante

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