南米の殆どの国の公用語がスペイン語に対して、ブラジルの公用語は、ポルトガル語である。これはブラジルが元々ポルトガルの植民地だったことが関係しているが、今日ではポルトガルでは使われないような表現も多く、語学学習でも“ポルトガルのポルトガル語”と“ブラジルのポルトガル語”は別のテキストが作られている。ブラジルの中でも場所によって異なる表現もあり、方言も沢山存在する。
「ブラジル人でもポルトガル語を正しく話せる人はいないよ!」
と、私がポルトガル語を勉強しはじめた頃にブラジル人の友達が言った。
日本語でも同じだが、私たちが普段使う口語は文法的には間違っていなくても、正しい(もしくは美しい)表現でなかったりする。
まずはポルトガル語の主語人称代名詞について説明しよう。
単数 | 複数 | |
一人称 | Eu 私 | Nós 私たち |
二人称 | Tu きみ | (Vós 汝ら)* |
三人称 | Você あなた Ele 彼、それ Ela 彼女、それ | Vocês あなたたち Eles 彼ら、それら Elas 彼女ら、それら |
ブラジルでは場所によって二人称Tuを使うところと、三人称Vocêのみを使うところが分かれている。
ポルトガル語は主語人称代名詞によって動詞が活用する。
Cantar (歌う)を例にしてみる。
単数 | 複数 | |
一人称 | Eu canto | Nós cantamos |
二人称 | Tu cantas | – |
三人称 | Você/Ele/Ela canta (A genteもここに含まれる) | Vocês/Eles/Elas cantam |
更に、動詞は現在形、過去形、未来形…と場合によって変化するのである。
ブラジルの口語では一人称複数Nósの変わりに“A gente”を使うことが多い。
Gente(人々)は普通名詞なので、動詞の活用は三人称単数にあたり、Cantarの場合、A gente cantaとなる。つまり、Tuを使用しない場合、一人称単数・複数と三人称複数の3つの活用だけで会話をすることが可能である。A genteを使うことは、今日では当たり前のようになり、若い世代に人気の歌手Gusttavo Limaの 楽曲”A gente faz amor”など、歌詞としても違和感なく使われているが、実際はインフォーマルな表現としての扱いである。
“Nós” (私たち)という表現で、ぱっと思い浮かんだのが、Johnny Alfだった。
Johnny Alfといえば、代表作“Rapaz De Bem”も素晴らしいが、“Eu e a Brisa”という友人の結婚式のために依頼されて作られた曲は名作中の名作だ。この曲は歌手Márciaの依頼でIII Festival de MPB da RecordというTV局の歌謡曲フェスティバルにも応募されたが、作品もMárciaの素晴らしい歌唱も評価されずに、最終選考まで残ることができなかった。それでも沢山の音楽家から支持され、多くの歌手がこの曲を録音し、「フェスティバルの審査は不適格だった」とも騒がれた。
話は戻るが、Johnny Alfが作る“私たち”についての作品は、非常にロマンティックである。偶然にも彼は“Nós” (私たち)という題名の曲を残している。Nósというポルトガル語は、口語ではあまり使われないが、公式な表現であると共に、音として非常に美しい。ブラジル音楽のメロディが、ポルトガル語の音節と関係していることがよくわかる。
Nós que revidamos a tristeza juntos e alimentamos a beleza juntos pra progredirmos em fazer amor! Nós que agradecemos à emoção traçada, conjeturando em sensações caladas pelos tributos do sorriso e dor. Eu, que divulguei a minha mão na tua, pra ter em ti a salvação tão nua que me agasalha neste espanto a sós! Tu, que respondestes ao que eu tinha em mente pra alimentar meu ar, meu ambiente e me aceitou por complemento a nós !
アルバム: Nós (1974)
作詞作曲: Johnny Alf
編曲: Paulo Moura, Paulo Moura
録音:
Arthur Verocai | Violão
Johnny Alf | Celesta
Luiz Alves | Contrabaixo
Paulo Moura | Saxofone Alto
Robertinho Silva | Bateria
Tenório Júnior | Piano
【参考】
http://www.discosdobrasil.com.br/discosdobrasil/consulta/detalhe.php?Id_Disco=DI01282
http://qualdelas.com.br/