#16【interview】Valsa n°2 / Guilherme Fanti

このサイトを立ち上げた時からやってみたいと思っていたインタビュー企画。
記念すべき初回、サンパウロを中心に活躍するGuilherme Fantiが新しいシングルをリリースしたのを記念して、彼の音楽人生と楽曲について話してもらった。

Photo by Vinicius Corrêa

―音楽を始めたきっかけは?これまでどんな音楽人生を過ごしてきた?

 音楽を始めたのは祖父の影響だね。プロではなかったけどダンスパーティー等でドラムを叩いていたから、家に楽器があって。子供のころの遊びと言ったら楽器に触れること。はじめての楽器はドラムだった。
 その後、ドラマーは演奏する時に楽器を運ばなきゃならないってことに気づいて、気軽に運べるギターに興味をもったんだ。笑
 そこからガットギターを近所の音楽教室で習い始めた。よくあるパターンだけど、その後はエレキギターに転向してロックのグループを組んで活動したよ。13,14歳の頃にはブルースに興味を持ち始めて自分なりだけど演奏するようになった。
 知り合った友人がタトゥイにある音楽院のことを教えてくれて、それを祖父に話したら、偶然にも同校でギターを教えていたLuiz Benedettiが祖父と同じマンションに住んでたんだ。そこでBenedettiの個人レッスンを受けられるように話してもらって、レッスンを受けてからは2か月の間ひたすら勉強して音楽院の試験に臨んだ。そして音楽院の予備クラスに入って、そこからは狂ったように練習に励んだよ。特に1年目は(技術的、音楽的に)遅れているって感じていたから、巻き返すのに必死だった。
 この時期のタトゥイは、Hermeto Pascoalの影響で多くのインストルメンタルグループが存在していて、Trio CurupiraやMente Claraなどが毎日どこかでリハーサルをしていた。毎週のように新しいグループができては消えていったよ。そこで自分もグループを組もうと思って組んだのがGrupo Cincadoだった。元々は勉強するのが目的のグループだったけど、だんだん自分たちの曲も演奏するようになっていったんだ。演奏も大好きだけど、作曲することも大好きだし、同時に音楽家として大切だと感じていたから、グループのために曲を書き始めるようになったんだ。初期メンバーにはサックスにJota P.(サックス奏者、Hermetoグループのサックス奏者)、Fulvio Moraes(ドラマー、André Marques Sextetoメンバー)など、その後何度か入れ替わりがあったけど。いつも才能溢れんばかりのメンバーに囲まれて、グループに応じたいという気持ちと責任も持って作曲に精を出した。そこで沢山のことを覚えたんだ。André Marquesと意見を交換したり、沢山の音楽を聴いたり、書き取ったりしながら、実際にそれを試していった。
 そのあとAndréにVintena Brasileiraのメンバーに呼ばれて、更にAndré Marques Sextetoに加入。とにかく5年間がむしゃらに過ごしたよ。今でも常にギターを通して自分の可能性をさがしてる。未だにみつけられていないけどね。笑

― 常に向上心があるってことでいいよね!音楽家ってそうだよね。ずっと何かを探してる。笑
― タトゥイと言えば今のサンパウロのインストシーンで活躍する大先輩をいっぱい輩出してるけど、特に印象に残っていること(人)はある?

 同じ時期に在学していた友人たちから沢山のことを覚えたよ。特にMarcel Bottaro(ベーシスト、André Marques Sextetoメンバー)とFabio Leal(ギタリスト/作曲家、2018年までタトゥイ音楽院で教鞭を執る)は、まだ僕の演奏が不完全な状態だった時からよくギグに誘ってくれたりして。

 Fabio Lealは本当に沢山のことを教えてくれた。出会った瞬間から様々な音楽の世界観をみせてくれたんだ。本人は教えようと意図的にしていたわけじゃないと思うけどね。Fabinhoはその頃音楽院を卒業したけどまだ同校で教鞭は執っていなかった。でも「何かいいものもってるな」と思った学生を、積極的に彼自身のギグに呼んだりしてたんだ。沢山の人がそこでいろんなことを覚えたよ、僕もその一人だよね。だから今、自分も同じことができたらいいなって思ってる。

 Marcelは同郷ということもあって、この時期よく一緒に演奏した。音楽だけでなく、今でも仲の良い親友だよ。 そしてAndréから覚えた事は話しきれないほどだし、Fernando Corrêaからはギタリストとして大切な事を沢山学んだ。
この頃はまだYouTubeとかもなかったから、練習以外にはリハーサル、レッスン、時間が許せば誰かの家に行ってひたすら覚えたよ。今はビデオで学べることも沢山あるけど、やっぱり誰かと一緒に覚えることは大切だよね。

― 今回のシングルをリリースした経緯は?

 録音は去年したんだ。 このシングルを含めたミニアルバムを近日中にリリースする予定だよ。この曲を先行リリースしたのには理由があって。
 今回のアルバムに入る曲は、3つの場所、3つの異なる編成で録音したんだ。
1つ目は自宅スタジオで録音したギターソロ、2つ目はサンパウロのスタジオにて録音したFelipe Brisora、Paulo Almeidaとのトリオ、そして3つ目はクリチバのスタジオにて録音したThiago Duarte、Matheus Silvaとのトリオ。だからアルバムの名前は『3+3』なんだ。ジャケットはLucy B(ヴォーカリスト/アーティスト)に描いてもらった。
 元々、記録として残すつもりでそれぞれ録音したんだけど、あとから並べてみたらアルバムっぽいなぁって思って。他の2つはビデオとして既にプラットホームに上がっていたから、今回のワルツをシングルとしてリリースしたんだ。これから最終チェックをしてアルバムをリリースするよ。

―このワルツはクリチバで録音したって言ったけど、どういう経緯でクリチバのミュージシャンと知り合ったの?

 サンパウロで参加していたバーでのギグのドラマーがその日来れなくなって代理を探してて、そこにたまたまサンパウロを訪れていたMatheusが呼ばれたのがきっかけだった。彼とはもちろんその日に初めて会ったんだけど、演奏が凄く上手くいって。そこから仲良くなって、彼がクリチバに招待してくれ、1週間クリチバ滞在しながらワークショップをしたり、彼らと演奏したり。その際に録音したんだ。

― 凄い偶然!それにいつものグループからちょっと離れるのも少し面白いことだよね。違ったアイディアが生まれるというか。

 そう。だから人との出会いは大切。まさかバーのギグで一緒になった人と仲良くなって、また一緒に演奏して録音、そしてリリースまでするとは思ってもいなかったよ。良いエネルギーだよね。

― クリチバとサンパウロのミュージシャンに何か違いは感じた?

 そうだなぁ。例えばMatheusは初めてのギグの時に1曲目からブラシを使ったんだ。彼のアイディアでね。そのとき「お!面白いな!」って思って。
 もちろんどちらが良いか比べるものじゃなくて、ちょっと違った見解だなと感じた。思いがけない発見だったんだ。

― 曲名は「Valsa No. 2」ってことだけど、何かイメージしたこととかある?

 曲名は2曲目に録音したワルツだったからだよ。笑
 作曲をするときは、常に編成を先に考えるようにしてる。そしてどの楽器で演奏するかも考えて作ることが多いんだ。この曲はトリオ(エレキギター、コントラバス、ドラム)のために作った。

― じゃあ、メロディとコードを作曲してからその時の編成に任せるんじゃなくて、元々どういう音になるかって考えて作ってるんだね?

 たまにそうじゃないこともあるけど、だいたいそうかな。その楽器が演奏するからこそ生きるメロディとかもあるからね。だからGrupo Cincadoでは曲中に楽器の持ち替えとかもしていたよ。音重視だね。
 ちなみに2019年は特に自分の楽器(ギター)に集中するようにしていたから、今回のアルバムに入る”Voando em Terra“(既にYoutubeにアップロード済)はメロディと伴奏とベースをギター1本で聞かせるってアイディアを使ったんだ。難しかったから沢山練習したよ。

― アルバムに収録される他の作品についてのエピソードはある?

 オマージュが2曲収録される。 1つは僕の生徒に。彼がレッスンに通い始めた頃、彼がつくまでの間、レッスン室でメジャートライアドのオープンヴォイシングを練習してたんだ。そうしたらそれを聞いた彼が目をキラキラさせて入ってきて、そこから1時間夢中になって2人でそれについて話した。残念なことに、レッスンの翌日に交通事故で亡くなってしまって。その彼のために書いたんだ。もう1つは僕の祖母にむけて書いたワルツ。

― それぞれ別々に録音して、後からアルバムにしようって決めたわけだけど、何かパンデミックと関係はあるの?外出規制に入ってから、どんな風に過ごした?

 そうだね。パンデミック中、何か録音したいなぁとは思ってたんだけど、見返してみたら良い記録が沢山あったことに気づいたんだ。一見バラバラに感じるかもしれないけど、2019年に録音したもので、録音した時には特に考えてなかったけど、後からみたら一つの周期として全ての曲がぴったり収まった。
 外出規制になってから、元々いた生徒たちは全員オンラインに移行することを承諾してくれて、それ以外にもレッスンしたいと連絡してきてくれた人も沢山いた。その他にもいくつかの録音に参加したり、ビデオ合奏も録音したり。自宅録音も沢山したから、マイクの使い方やミックスについても勉強したよ。
 オンラインのフィールドで何か始めるべきかと考えたけど、自分にとってあまり自然なことじゃないと思った。でもビデオ合奏は結構面白かったかな。久しぶりに共演できた人もいたしね。ただ、同時に演奏してないからやっぱり納得できない箇所もあるけど。あとはいくつかのチャレンジ企画にも参加したよ。Jacob Collierのやつは特に興味深かったかな。
 今は自分のサイトを整えていて、アドバイス的なレッスンの動画も掲載する予定。

Photo by Vinicius Corrêa

― ありがとう。最後の質問。エレキギターもガットギターも弾きこなしているけど、正直どちらが好きとかある?

 選べないなぁ。笑
 仕事や録音によって偏りはあるけど、できるだけ常にどちらも演奏できるようにしてる。最初は持ち替えに凄く苦労した。できるだけ2つの楽器をストレスなく移動できるよう日頃から練習してる。
 自分の意見としては、全てのエレキギタリストは、ガットギター(もしくはアコースティックギター)を勉強すると良いと思う。アコースティックならではの繊細な部分を感じ取ることができるからね。それはエレキギターにも活かせる。例えばエレキギターの曲をガットギターで練習したり、その逆をしたり。最初のうちは音が変わることに耳が慣れなくて、エレキギターで弾けていた曲がガットギターで全く弾けないなんてこともあった。持ち替えの練習も沢山したよ。
 それが必要だと思ったのは、タトゥイのフェスティバルでCarlos Maltaのコンサートをみた時だった。そのコンサートは彼と弦楽四重奏の編成で、彼を囲むように並べられたピッコロからバリトンサックスなどの沢山の楽器を持ち替えながら演奏するんだけど、一度たりとも試しに音を出したりしなかったし、持ち替えて吹いた最初の一音が完璧だったんだ。一緒に観ていたJota P.も感激していたよ。凄く印象的で、それを常に思い出すようにしてる。

インタビュー/2020年12月1日

インタビューを終えて

 Guilhermeはソロカバというタトゥイとサンパウロの間にある街出身。この街は現在のサンパウロのインストシーンで活躍する器楽奏者を沢山輩出している。これはタトゥイ音楽院が近いということと、Luiz Benedettiが教えていたということが関係あるかもしれない。今はヨーロッパで活躍するFabio Gouveaも14歳の頃にBenedettiからレッスンを受けている。地方都市でも、当時はエレキギターの(インプロヴィゼーションを中心とした)レッスンは珍しかった。
 作曲が大好きだというのにも、納得できた。なぜなら彼のインプロヴィゼーションは既に完ぺきに作られたようなメロディをしているからだ。本人のアルバムはもちろんだが、旧友であるFelipe Brisoraのアルバム『Interiores』でも素晴らしいソロを披露している。
 最後の質問は、個人的な興味で聞いてみた。彼の持ち味の一つに“彼らしい音色”がある。さらにはエレキギターもガットギターもびっくりするぐらい美しい。私は実際に何度も生演奏を聴いているのだが、ギターというのはこんなにも個性がでるものなんだと、いつも実感している。例えば、彼はFabio Lealの影響を強く受けていると言っていたが、二人の音色は全く異なる。二人をよく知っているので余計にそう思うのかもしれないが、それぞれが自分の良さを出せてこそ、演奏家としてより深く成熟していくのだろう。

作曲:Guilherme Fanti
録音:Guilherme Fanti(guitar), Thiago Duarte(contrabass), Matheus Silva(drums)
録音:Estúdio 3×7 em Curitiba/PR

【Link】
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